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ESSAY

【レビュー】樺沢紫苑著『父滅の刃』読書感想文

「父性」視点のマニアックな映画評論本

王道作品をマニア視点で読み解く一冊

今回の一冊は、今までの樺沢紫苑が世に送り出してきた数々の著書とは完全に一線を画した仕上がりとなっている。

「なんだこのめちゃくちゃマニアックな本は…!」

読み始めたときに思わず出た言葉だ。

映画好き、アニメ好きの著者が100本を越える作品を見直すだけでも250時間以上かかり、執筆に3か月以上かかったという、最も「時間」と「精神エネルギー」を費やした一冊とのこと。

「この本、重いな…。」(※重量が)

と思い、近著である『ブレインメンタル強化大全』『ストレスフリー大全』と並べて比べてみたら、明らかに本書が分厚いことが分かり、著者がどれほど力を入れて執筆したかが伝わってきた。そして間違いなく楽しんでいただろう。

この本のすごいところは、時代を超越しているところだ。1960年代という古い時代の映画から、2020年最新の『鬼滅の刃』まで多岐にわたる作品を網羅し、根底に「父性の消滅」を共通項として心理分析している点だ。

あまりにもマニアックで“読む人を選ぶ作品”かと思ったが、意外とそうではない。100を超える作品の中には人気、王道、大ヒットの作品が多く取り上げられているので、「ふつうに流行ってる映画くらいは見るよ。」というレベルの映画好きであっても、読みごたえがあるだろう。「こっちの映画は見たことないけど、これは知ってる!」といった感じで、自分の知っている作品の章だけを選んで楽しむのもありだ。

38作品でも十分楽しめる

本著で言及されている作品のうち、私が鑑賞済みの作品を一章から挙げてみよう。『ONE PIECE』『ピーターパン』『パイレーツオブカリビアン』『ハリーポッター』『ロードオブザリング』『ダ・ヴィンチ・コード』『クレイマークレイマー』『エクソシスト』『ポルターガイスト』『エイリアン』『大草原の小さな家』『ナルニア国物語』『ダークナイトライジング』『ALWAYS三丁目の夕日』『崖の上のポニョ』『風の谷のナウシカ』『もののけ姫』『となりのトトロ』『千と千尋の神隠し』『紅の豚』『天空の城ラピュタ』『ルパン三世カリオストロの城』『マトリックスレボリューションズ』『ドラえもん』『サザエさん』『おおかみこどもの雨と雪』『ファイト・クラブ』『キャッチ・ミー・イフ・ユー・キャン』『リトル・ミス・サンシャイン』『オペラ座の怪人』『ベンジャミン・バトン数奇な人生』『クッキングパパ』『チャーリーとチョコレート工場』『ドラゴンボール』『アナと雪の女王』『アラジン』『君の名は。』『鬼滅の刃』以上、ざっと数えて38作品。

これだけでも、それぞれの映画のシーンやキャラクターを思い出しながら“父性”について読み解かれた文章に触れるのは新鮮で刺激的な感覚であった。自分には全くなかった視点だ。

SF好きはもっと楽しめる

ちなみに、私がSFがあまり得意ではないという理由で(一応見るけれどもハマれなくて最後まで見れなかったり、食わず嫌いだったり…)上記に入っていない『スターウォーズ』『ガンダム』『エヴァンゲリオン』この有名どころが好きな人にとっては、大変楽しめる一冊だということを、紹介に付け加えておきたい。この3作品については全章を通して随所で触れられている。図解もある。ファンにとってはたまらない解説だろう。

映画から実体験へ

自分の家庭環境が浮かぶ

さて、映画と照らし合わせながら読む分には「楽しい」「斬新」「新鮮」「納得」な感覚で読み進められる本著だが、同時に苦い感覚が常に付きまとう。それは、自分の家族、自分と父親の関係、娘と夫の関係が頭によぎり、比較しながら読んでしまうからだ。父親との関係がうまくない、もしくは「父親殺し※」ができていない人間にとっては“苦しい読書”になるかもしれない。しかし同時に自分にとっての「父親」探し、そして「父親殺し」をするキッカケになることは間違いない。(※この言葉は強烈!父親殺しとは心理的表現で、大人になる成長の過程で必要である、父親と格闘し、乗り越え、和解というプロセスを指す。)

樺沢紫苑の「父親殺し」

読者がそうならば、著者は間違いなく自分の父親と照らし合わせながら執筆しただろうと想像していたら、その通りであった。第6章で、著者自身の「父親殺し」の体験を綴っていることは、非常に興味深かった。精神科医である著者が、42歳の時にご両親の大反対に反抗し、作家になることを決意し貫くという過程は、大人になっても父親殺しができていない多くの人を勇気づけるエピソードである。また、著書のご祖父、ご両親の素顔を知ることができ、人となりが分かったのも本書を読んで良かったと感じたポイントだ。身体と心の辞典である『大全シリーズ』では読むことのできない部分である。

私と父親

私自身が生まれ育った家族と父性の関係を見ていくのは、今時点では非常に苦しい作業である。私の家庭には、大きな声では言えないような家族問題と闇が存在し、そこには完全に「母性」と「父性」のアンバランスが絡み合っている。それを紐解いて受容するのには私はまだ人間が出来上がっておらず、「もうその部分に向き合わない」「切り離す」「逃げる」といった対応でなんとかやり過ごしている。乗り越えたわけではなく、“やり過ごしている”のだ。

自分が父親殺しができているのか正直分からない。父は「Good father」でもあるし「Bad Faher」でもあると思う。映画のキャラクターのように分かりやすく分別することができない。(身内だから客観視できないからかもしれない。)「Bad Father」のカテゴリーで言えば、「Ordinary Father」と「Weak Father」の素養がある。自分の父親を客観的に見てカテゴリー分けするのは、なんだか辛い。

父との関係は決して悪くはないが、もやもやと思うところはある。しかし、不思議と母に抱くそれとはまた違う種類のものだ。もうすぐ70歳になる父に今思うことは、残りの人生はとにかく自分のために、自分の思うように、むしろ自己中心的にやりたいことを謳歌して楽しく過ごしてほしいという願いだ。

普通の父親ではダメ?

「父性」とは「灯台」

普通の「Ordinary Father」が「Bad Father」にカテゴリー分けされていることにショックを受けた。「Weak Father」と「Very Strong Father」が「Bad Father」だというのは分かりやすいが、「普通」でもダメなのか。

第6章で「父性とは「灯台」である」という項目がある。「父性」とは、「父親的な力強さを持った存在」であり、「自分の目標や経緯の対象となる存在」であると著者は言う。指針となるべき父親がごく普通の平凡なサラリーマンで、勤勉で仕事も熱心、きちんと家計を支える、所謂「良き父親」のようであっても、あまりにも「普通すぎる」存在感のない父親は、「灯台」の役割を果たさないというのだ。キツイ。これを素直に受け入れられるサラリーマンパパはどのくらいいるだろうか。

毎日会社に週5日行って仕事をしていることが物凄く立派だと感じている自分にとっては、それを何十年と継続し勤め上げた父親も、夫も尊敬に値するが、子供にとっての「父性」というのはそうではなく、難しいのだと学ぶ。確かに自分が大人になり、社会経験をある程度積んだ今「普通のサラリーマンを長年やることのすごさ」は分かるが、子供の頃は分からなかった。嫌そうに会社へ行く父を見ていて、「なんであんなに暗いんだろう。」と思っていた時期もあった。そういう意味で父親が「灯台」でないとBad Fatherになってしまうということか。

「灯台」になるためには

本書ではその処方箋も紹介されており、会社や職場で頑張っている姿は家庭で伝わりにくいため、子供とのコミュニケーション量を増やすことや、何か熱中できる趣味を見つけて一緒に遊ぶ中で「お父さんってすごい」と思わせる、何か特技や長所を持ち家庭内で発揮することを提案している。

食卓と家族における「父性」

父親になったばかり

次に私の娘の父親、つまり私の夫の父性について第5章の第2節「食卓と家族」と絡めてエピソードを紹介したい。

夫は娘のステップファーザー。継父である。突然「思春期の娘」の父親になり、2020年11月22日、本日、めでたく父親歴2周年を迎えた。2周年と言えど、同居してからはまだ8ヵ月しか経っていないので、同居父親歴は1年にも満たない。娘は中学1年生。父親1年生にとって難関の思春期女子だ。

母性と違い、父性は特に子供を育てていく中で徐々に育まれるものだと言われていることを鑑みても、男性が急に父性全開パパになるというのは難しいことだ。一生懸命に「父親」になろうとしている夫と、その「お父さんに評価されたい」と頑張っている娘、二人とも家族になるためにそれぞれに努力している。私たちは始まったばかりで、気持ちがすれ違ったりうまくいかないこともあるが、時間をかけて親子関係、家族関係を構築していきたいと思っている。

食卓の父の行動から学ぶ

そのような二人の間で嬉しい父性エピソードがある。娘が私の料理に対して「美味しいよ。」とコメントをくれるようになったのだが、それは「お父さんがいつもそう言っているから。」と教えてくれたのだ。以前の家庭では、私が「どう?」と聞くまで料理の感想を聞くことはできなかった。しかし現夫は、必ず「これ美味しいね。」「本当に料理上手だな~」「今までまずかったものはない!」と毎回誉め言葉をくれるのだ。(まあまあの時ももちろんあるが、そういう時に「これまあまあだね。」とは絶対言わない。黙っているので分かりやすい。)

この夫の言動を毎日聞いていて、「美味しい時には、美味しいよ、ってママに言うんだなって覚えた。」と言ってくれた時の喜びと言ったら!

食事を共にする重要性

よほど旅行に行ったりイベントを催さない限り、3人で過ごすことは少ない。家に居てもそれぞれ別室で別のことをしているので、食卓を一緒に囲むことは大事にしてきた。そこでの会話や同じものを食べることが家族形成に大切と思っていたが、さらに「父性」の発揮場所だと本書を読むことによって認識ができた。

本書では、

・父親が家庭の中で「父性」的な存在として機能しているかどうか、一瞬で判断できるのが食事のシーン。

・食卓に父親がいるかいないか、どういう役割を果たしているのか観察すると、家族関係と

父性」が分かる。

・「いただきます」が普通に出るのは礼儀が保たれている証拠

・食卓は、今日の出来事を話す場であり、同じものを食べ、おいしいを共有する場。

・あるいは、子供にマナーを教え、規範を示す場

だと記されている。共感しかない!同時に食卓を大切にしてきて良かったという安堵を覚えた。

外食の場でも

外食時でも同様だ。夫は配膳やドリンクなどサービスを受けた際に「ありがとう」とスタッフの方にお礼を言う習慣があるが、それを見ていた娘がやはり「ありがとうございます。」と言うようになったのだ。私も昔から言っていたのだが…、娘は夫の真似をするのだ。これぞ「父性」なのだろう。

個々が重視される今だからこそ

核家族化、「個」が尊重される時代において、家庭における各々のプライベートタイムが充実する反面、共有する時間が少なくなっている。スマホを一人一台所有し、それぞれに好きな動画や映画を見るので、“リビングのテレビを一緒に見る”ことは稀になっているのではないだろうか。

そのなかで唯一全員が時間と体験を共有できるのが「食事」だろう。「食」は「生きる」ことと同義と私は思っている。食卓を一緒に囲むこと、同じ料理を食べることは「生きる」ことを共有することだ。その場で「父性」が発揮され、娘がいつか「父親殺し」ができるようになることを願う。

様々な父親

ここまで「父親ありき」のていで父性について述べてきたが、本書では「父親がいない家庭」「父親が死んでしまった場合」「血のつながりがない家族」「和解を求めて」等、様々な父性に絡む問題が取り上げられている。それぞれ映画が引き合いに出されており、分かりやすく解説されているので、父性問題の悩み解決の一助となるだろう。

ディズニーのダメンズ

個人的に面白かったのが、昨今の「ディズニー」映画における男性のダメっぷりについての評論。どうしてもプリンセスキャラばかりに目が行ってしまうディズニー映画だが、『アナと雪の女王』におけるクリストフを“へたれの役立たず”と、『アラジン』のアラジンを“ディズニー史上、最も腑抜けで情けない男、登場!”と“ぶった斬る”評論はすがすがしく爆笑。そしてディズニーが男性キャラクターを「ゼロ父性」で表現することに対して疑問を抱くところも、さすがの切り口。私も実は『アナ雪』は個人的な理由で受け付けられず(歌は大好き)、ただ『アラジン』はジーニーが大好きでノリの良さも音楽も歌も踊りも好きでエンタテインメント作品として大好きなのだが、著者の視点は新しく、また共感を得るものがあった。今までの映画も「父性」の視点で見直してみると再度楽しめるだろう。

樺沢先生へ

樺沢先生、新しい視点の映画心理分析本をありがとうございました。『エクソシスト』など、もう何十年も前に見た映画などを思い出しながら、とても楽しかったです。『ファイトクラブ』も見直したくなりました!

そして次回はぜひ「母性」「母子関係」についての本も出していただきたく…!(本書内でチラチラそのような匂いがしましたが…。)楽しみにしています!

主婦クリエーター
阿部真理子
江の島と海を眺めながら、湘南主婦生活を楽しむアラフォー母。ベストセラー作家樺沢紫苑の本・読書感想キャンペーンにて最優秀賞受賞(2020年)優勝賞受賞(2019年)。YouTubeの始め方、ビストロ料理、vlogをYouTubeにて発信。人生楽しむネタ・ポジティブな日常をツイッター&ブログで絶賛発信中!クスっと笑ってもらえる家族絵日記は、インスタでどうぞ♥お仕事ご依頼はお問い合わせフォームからお願いします。
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